ケーススタディ

値段ってどう決める? AIと、価格・利益を整理できる無料ツールを作った

売れているのに利益が分かりにくい。そんな値付けのモヤモヤを公的資料から整理し、AIと無料の価格・利益診断ツールを作った背景を紹介します。

・更新 ・#価格設定 #小規模事業 #利益 #課題解決 #AI活用

商品は売れている。それなのに、思ったほどお金が残らない。

値上げしたほうがよい気はするけれど、いくらにすればよいのか分からない。材料にかかるお金は数えていても、自分が動いた時間や、毎月きまって出ていくお金までは、値段に入れられていない。

そんな値付けの迷いを一つの画面でまとめるために、無料の価格・利益診断ツール 「余白 / Yohaku」 を作りました。

余白で値段と利益を見てみる

入れるのは六つです。売る値段、1件あたりにかかるお金、かける時間、毎月の固定費、売れそうな数、ほしい利益。すると、利益の率、じっさいの時給、ひと月の利益、黒字になるまでに売る数などが、まとめて出ます。登録は要りません。入れた金額はサーバーへ残しません。

この記事では、なぜこのツールを作ったのかを、思いつきではなく、おおやけの資料と、困りごとをほどく手順から書きます。AIと一緒にどう作ったかは、別記事の制作過程編にまとめました。

まず、どんな困りごとを助けたいのか

「値上げが難しい」は、一部の人だけの感じ方ではありません。

中小企業庁の「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書」の概要には、こうあります。2025年9月の時点で、中小企業のコスト全般の価格転嫁率は53.5%でした。よくなってきてはいるものの、値段へ移せるところと移せないところに、はっきりわかれたままだそうです。

ここでいう価格転嫁率とは、直近6か月でコストが上がったぶんのうち、おもな取引先との値段へどれだけ移せたかを集めたものです。個人向けの販売や、すべての小さな商売をそのまま表す数ではありません。それでも、上がったコストを値段へ移すのがたやすくない、という手がかりにはなります。

さらに、2025年版小規模企業白書には、売り上げが1,000万円以下の事業者についての数ものっています。経理をしている人が「1人」と答えたところは約9割。経理だけを受けもつ人がいないところは約8割です。

つまり小さな商売では、値段を考えるための数がいくら大事でも、日々の仕事と並べて、一人か少ない人数でまとめなければならないことが多いのです。

小さな商売の値付けで、コスト上昇と少人数運営が利益の見えにくさにつながる構造

おおやけの資料から言えること

  • 中小企業では、上がったコストを売る値段へじゅうぶんに移せていないところが残っている
  • 小さな事業者ほど、経理へまわせる人が限られている
  • 何にいくらかかっているかと、利益をつかもうとしている事業者のほうが、値段へ移せている傾向がある

ここから先は、今回ためす見立て

おおやけの資料だけでは、「どんな計算の画面なら一人ひとりが決めやすいか」までは分かりません。

そこで今回は、値付けのつまずきの一つは、要る数がばらばらの場所にあって、値段を変えたときの結果を一度に見くらべにくいことにあると見立てました。

分かっていることと、見立てを混ぜないのは大事です。この見立てが当たっているかは、公開したあとの使われ方と感想から確かめます。

困りごとを、もう少し細かく分けてみる

「値段が決められない」という悩みは、そのままでは大きすぎます。じっさいの判断に近づけるため、次の四つにほどきました。

「値段が決められない」を4つの問いに分けた図。1件売って残る金額、自分の時間を入れた採算、固定費を回収できる販売数、目標から逆算した販売数

1. 1件売ったときに残るお金

売る値段から、材料や決済の手数料などを引けば、1件あたりに残るお金が出ます。

ただし、売上だけを見ていると、売れた数だけふくらむ出費を見落としやすくなります。

2. 自分が動いた時間まで入れた採算

ハンドメイド、制作の代行、相談、個人のサービスなどでは、動いた時間も大きなコストです。

帳簿のうえでは残っていても、時間で割ると思ったより低くなることがあります。だから「1件で残るお金」と「じっさいの時給」を分けて見る必要があります。

3. 毎月の固定費をまかなえる数

ソフトウェア、家賃、通信費、広告費などは、1件も売れなくてもかかります。

1件あたりに残るお金が分かっても、何件売れば固定費をまかなえるかが分からなければ、ひと月ぜんたいの見きわめには足りません。

4. ほしい利益から逆算した数

「黒字になる」と「ほしいだけ残る」は、別のことです。

ほしい利益を決め、そのために売る数を逆算すると、いま見こんでいる数が無理のないものか、値段やコストを見直すべきかを考えられます。

本当の困りごとは、計算より「数がつながらない」こと

ここまでをまとめると、まんなかにあるのは「利益の率の出し方を知らない」ことだけではありません。

売る値段、売れた数だけふくらむ出費、時間、固定費、売る数、ほしい利益がばらばらに置かれていて、一つを変えたときに、ぜんたいがどう動くのか見えにくいことです。

表計算ソフトでも出せますが、式を作るところから始めることになります。一つのことだけを出すツールは手軽でも、利益の率、時給、とんとんになる点、ほしい利益までを続けて見くらべるには、何度も入れ直すことになります。

今回むきあうのは、くわしい会計の手つづきではなく、値付けをはじめに決めるときに要る数を、一度に見わたせないことだ、としました。

最初に助けるところを決める

すべてを一度に片づけようとすると、入れる項目が増え、使いはじめる手間も重くなります。そこで、次のものさしで先にやる順を決めました。

ものさし 見ること
効き目 間違えたとき、残るお金へじかに響くか
ひんど 値付けや売る計画で、くりかえし見るか
解けるか 少ない入力で答えを返せるか
安全 個人の情報やくわしい取引の中身を残さずに済むか
続けられるか 無料のまま出し続けられるか

このものさしから、はじめの版では次を先にしました。

  1. 1件あたりに残るお金と、その率
  2. 動いた時間まで入れた、じっさいの時給
  3. ひと月に残るお金
  4. 黒字になるまでに売る数
  5. ほしい利益に届くまでに売る数
  6. 10%値上げしたときの変わり方

課題を評価基準で絞り、6つの入力から値付けの判断材料を返す流れ

そこで、決めるための材料を一つの画面へまとめた

作った「余白」では、六つの数を入れます。

  • いま売っている値段
  • 1件あたりにかかるお金
  • 1件あたりにかける時間
  • 毎月の固定費
  • ひと月に売れそうな数
  • ひと月にほしい利益

入れると、いまの採算と、値段を変えたときの一例が、同じ画面に出ます。

実際に「余白」を使ってみる

使い方はサービスの中にまとめてあるので、この記事では手順をかさねて書きません。記事は「なぜ作ったか」、サービスは「どう使うか」、制作過程編は「どう作ったか」と、役わりを分けています。

このツールでできること、できないこと

「余白」は、値段の正解を自動で決めるものではありません。

できること

  • いまの値段で、どれだけ残るのかをためしに出す
  • 動いた時間まで入れた採算を見る
  • 固定費をまかなう数や、ほしい利益に届く数を見くらべる
  • 値上げしたときの変わり方を、仮の話として見る

できないこと

  • お客さんが受け入れる値段を約束する
  • 競合、需要、ブランドの値打ちを自動で見る
  • 税や会計のうえでの正式な判断をする
  • 値段の交渉そのものを代わりにやる

値段は、数だけでなく、お客さんが感じる値打ち、競合、売り方、信頼にも左右されます。このツールの役わりは、その手前で、自分の商売の数を整えることです。

作って終わりではなく、見立てを確かめる

公開した時点では、この困りごとの選び方が当たっていたと言えるわけではありません。

使いはじめ、診断の終わり、結果のコピー、任意の感想を、名前の分からない形で数え、「そもそも使われるか」「決めるときの助けになるか」を見ます。入れた値段や経費などは残しません。

反応が少なければ、ツールの足りなさだけでなく、困りごとの選び方、だれに向けるか、伝え方、届け方も見直します。

AIと人間が、調べもの、設計、開発、Cloudflareへの公開、しくじりの手直しまでをどう分けたかは、次の記事にくわしく書きました。

AIと「余白」を作った制作過程を読む

同じ作業を、ふだんの仕事でAIに頼むなら

この記事でやっているのは、数を集めて、並べて、見くらべる作業です。同じことをふだんの仕事でAIに手伝わせるやり方も、別の記事に書きました。

利益の率やとんとんになる点を表計算で出したいなら、Excelの式をAIに書かせる。条件が2つ以上あるときの頼み方を読んでください。手で数えた答えと突き合わせた式と、条件を1つ落としたときの間違いを載せています。

白書のような長い資料から、要る数だけを取り出したいときもあります。そのときは長い文章をAIに要約させる。数字と「決めること」を落とさない頼み方です。金額や人数が消えてしまう頼み方と、消えない頼み方を送り比べました。

参考資料

調査日:2026年8月16日。数や決まりは変わるので、使うときに出ている資料も見てください。