ケーススタディ

AIと価格・利益診断サービスを作った全過程:調査、プロンプト、開発、公開の失敗

無料の価格・利益診断サービスを、AIと人間がどう分担して作ったか。調査、主なプロンプト、実装、Cloudflare公開、プライバシー上の失敗まで記録します。

・更新 ・#AIビジネス #Codex #Cloudflare #個人開発 #価格設定

この記事は、無料の価格・利益診断サービス「余白 / Yohaku」の制作過程編です。AIと人がどう分けて作ったのかを、そのままのこしています。

なぜ価格と利益をテーマにしたのか、どんな困りごとを解こうとしたのかは、先に課題解決編:小さな商売の値付けが難しい理由に書きました。国や役所が出している資料をもとに、困りごとを細かく分けています。

「AIについて書くブログ」から、もう一歩進めることにしました。

AIでものを作り、世の中へ出し、使われ方を見ながら直していく。その流れをブログにのこす試みです。1つ目として、ひとり商売向けの価格・利益診断サービス「余白 / Yohaku」を作りました。

余白を使ってみる

この記事では、完成品だけでなく、なぜこのテーマを選んだのか、どんな指示をAIへ出したのか、人間は何をしたのか、公開時に何を失敗したのかまで残します。

今回の実験条件

人間が出した2つの条件と、そこから決めたこと。「AIだけでほぼ自走できるもの」から物販ではなくWebツールを選び、「無料で始められて学習コストも低いもの」から有料販売を目指さず無料公開を先にした

最初に、人間側から次の条件を出しました。

基本的にAIだけで自走できるビジネスがいい。もちろん人も協力するけど。

無料で始められて、ラーニングコストも低い、またはかからないもの。AIだけでほぼすべて自走、改善、よりよいプロダクトにできるものがいい。

この条件から、最初の商品は物販ではなくWebツールにしました。在庫、発送、仕入れ、問い合わせ対応を増やさず、AIがコードと文章を継続的に改善しやすいからです。

また、最初から有料販売を目指すのではなく、無料公開して利用状況と感想を集める方針にしました。まだ需要が確かでない段階では、決済を作るより「本当に使われるか」を確かめるほうが先だと判断したためです。

なぜ価格・利益診断を制作テーマに選んだのか

無料、登録不要、在庫なし、AIで改善しやすいという4条件から価格・利益診断を選んだ

候補を比較するとき、次の条件を重視しました。

  • 登録なしですぐ使える
  • 説明を読まなくても操作できる
  • 入力と計算だけで価値を返せる
  • 利用ごとのAI API料金が発生しない
  • 改善案を小さく試せる
  • 個人事業や小さな商売で繰り返し起きる悩みを扱う

どんな困りごとなのか、その裏づけは課題解決編のほうへ分けました。ここでは、何と何を比べて、どんな中身にすると決めたのかだけを書きます。

事前調査では、損益分岐点や時給を計算する無料ツールはすでに複数ありました。つまり「計算できる」だけでは差別化になりません。

そこで考えを変えました。計算だけをする道具ではなく、6つの数字を1つの画面に入れると、次にどうするかを決める材料がまとめて返ってくるものにしました。入れてもらうのは、販売価格、1件あたりの経費、作業時間、固定費、販売見込み数、目標利益です。

  1. 1件あたりの利益
  2. 利益率
  3. 実質時給
  4. 月間利益
  5. 黒字化に必要な販売数
  6. 目標利益に必要な販売数
  7. 10%値上げした場合の効果

競合があるから中止するのではなく、「既存ツールを使ったあとに残る判断」を補う方向へ寄せました。

AIへ渡した主なプロンプト

会話で重要だった指示を、要旨ではなくできるだけ元の言葉に近い形で残します。

AIでプロダクトを作って、それを販売、最初は無料、とかできない?

需要あるの? サービスを知ってもらえるようにするのも自走で頑張ってほしい。もちろん、俺も協力する。

実際にビジネスを始める前に、なんでこのビジネスをしたのか、市場調査の結果とか、みんなが考えることをしっかり残そう。

人間が何をしたのかもしっかり記録してほしい。

これを受けてAIは、商売の見立てを整え、似たサービスを調べ、何を作るかを決め、コードを書いて試し、公開まで進めました。指示文、決めたこと、結果、人がやったこともログにのこしました。

AIが作ったもの

販売価格・1件あたりの経費・作業時間・固定費・販売見込み数・目標利益の6つを入れると、1件あたりの利益・利益率・実質時給・月間利益・黒字化に必要な販売数・目標利益に必要な販売数・10%値上げの効果の7つが返る。計算はブラウザーの中で、入れた数字はサーバーへ送らない

完成した「余白」は、6つの数字を入れると、その場で価格と利益を診断します。

入れた価格や経費は、ブラウザーの中だけで計算します。サーバーへは送りません。とっておくのは、使いはじめたこと、結果をコピーしたこと、書いてもらえたときの評価と感想、その日時だけです。

技術構成は次のとおりです。

項目 採用したもの
画面 React 19 / TypeScript
フレームワーク vinext
実行環境 Cloudflare Workers
データベース Cloudflare D1
計測 匿名イベントと任意フィードバック
初期費用 0円

計算そのものに生成AI APIを使っていないため、利用者が増えるたびにAI料金が積み上がる構成ではありません。現時点ではCloudflareの無料枠内で運用しています。

人間が行ったこと

AIが調査・制作・計測・改善を担い、人間が目的・権限・公開判断を担う役割分担

「AIがほぼ自走」といっても、人間の作業はゼロではありませんでした。

人間の作業 なぜ人間が必要だったか
事業条件の提示 何を大切にするかは事業者が決めるため
第一弾テーマの承認 需要仮説と方向性の責任を持つため
Cloudflareへのログイン アカウントと認証情報を守るため
OAuth権限の確認 外部サービスへ渡す権限を判断するため
端末で最終公開コマンドを実行 AIの作業環境から外部通信できなかったため
公開URLの個人情報を指摘 本人だから気づける文脈があったため

人間の仕事はコードを書くことより、条件、権限、公開、個人情報に関する判断でした。

AIが行ったこと

AI側は、次の作業を担当しました。

  • 事業候補と評価軸の整理
  • 競合・需要の簡易調査
  • MVP仕様と成功基準の作成
  • UI、計算ロジック、API、D1スキーマの実装
  • ビルドと計算ケースの検証
  • Cloudflare D1の作成とテーブル作成
  • Worker公開設定の作成
  • 本番ページ、エラー、D1保存の確認
  • 全工程とプロンプトの記録

さいごの確かめでは、本番のサイトで販売価格を変えて、D1に名前のつかないイベント started = 1 がたまるところまで見ました。

公開は一度で成功しなかった

AIがデータベース・設定・ビルドまで準備し、公開コマンドの認証と通信の制限で止まり、人間が端末でコマンドを2つ打ち、そのあとAIへ戻して本番URLと保存されたイベントを確認した、という4段の流れ

Cloudflare公開では、ブラウザーでダッシュボードへログインしても、公開コマンド側は別に認証が必要でした。

さらに、AIが動く環境からCloudflare APIへの通信が制限され、OAuthを許可してもトークン交換が失敗しました。そこで、AIがD1、設定、ビルドまで準備し、人間が通常の端末で次の最終操作だけを行いました。

npx.cmd wrangler login
npx.cmd wrangler deploy --config wrangler.deploy.jsonc

公開後、AIはCloudflareのWorker一覧、本番URL、画面の主要見出し、ブラウザーエラー、D1バインディング、イベント保存を確認しました。

これは完全自動ではありません。しかし、AIが止まったところを人間が引き取り、その後の検証を再びAIへ戻す分担は、現実的な「ほぼ自走」だと感じました。

一番大きな失敗:公開URLに個人ハンドルが入った

公開後、人間がこう確認しました。

俺の個人情報や、推測される情報は入ってないよね?

氏名、メールアドレス、住所は入っていませんでした。入力した価格や経費も保存していません。

しかし、最初のCloudflare公開URLには、アカウント由来の文字列が含まれていました。直接的な個人情報ではなくても、普段使っているハンドルと一致すれば、検索から本人へ結び付く可能性があります。

AIは最初の公開時に、コードとデータベースは確認しましたが、ホスティング事業者が自動生成するURLまで「公開情報」として十分に検査できていませんでした。

AIが見た範囲と見ていなかった範囲の図。コード・保存する列・氏名やメールは確認したが、事業者が自動で作る公開URLは見ておらず、そこにアカウント由来の文字列が入っていた

指摘後、次の対応を行いました。

  • 公開サブドメインを個人と結び付かない名称へ変更
  • 未使用のユーザー名・メール取得用サンプルコードを削除
  • 公開対象ソースから既知の氏名、メール、ハンドルを再検索
  • 公開前プライバシーチェックリストを追加
  • 新URLのSSL、表示、エラーを再確認

この失敗は、今回の実験で特に重要でした。AIは「メールアドレスがないから安全」と判断してはいけません。URL、アカウント名、ファイルパス、画像、メタデータも、本人を推測する材料になります。

現時点の結果

第一弾として、次の状態まで到達しました。

  • 独立した無料Webサービスを公開
  • 登録不要で利用可能
  • 診断入力値は外部へ送信しない
  • 匿名の利用イベントをD1へ保存
  • 任意の評価と感想を収集可能
  • 本番でイベント保存を確認
  • 初期費用と追加運用費は0円

まだ「ビジネスとして成功した」とはいえません。完成したのは、需要を検証できる最小の状態です。

次に検証すること

公開、匿名計測、問題発見、小さな改善、再計測を繰り返し、30日後に事業判断する

公開後30日間は、次の数字を見ます。

  • 利用開始数
  • 結果まで操作した人数
  • 結果コピー数
  • 「役に立った」の件数
  • 欲しい機能として書かれた内容

利用者が来なければ、プロダクトだけでなく知ってもらう方法を改善します。利用開始はあってもコピーや高評価がなければ、診断内容を改善します。感想で同じ要望が繰り返されれば、次の機能候補にします。

AIでプロダクトを作ること自体は、以前より簡単になりました。難しいのは、何を作るか、誰に届けるか、何を保存しないか、結果をどう判断するかです。

今回の試みでは、AIがかなりの部分を受けもてました。同時に、人が決めなければならない場所もはっきりしました。次は、公開したあとの使われ方と、人を集める試みの結果をまとめます。

【2026-09-12 追記】 この「次回」の記事は書いていません。このあと、Yohakuは「AIで作った例」として置いておき、更新しないと決めたためです。上の「次に検証すること」に挙げた数字も、見るのをやめています。仕事でAIに頼む話は、下の章で案内しています。

作る話ではなく、仕事でAIに頼む話を読みたい方へ

このサービスは「AIで作った例」として置いてあり、いまは更新していません。作る話よりも、ふだんの仕事でAIに何を頼めるかを知りたい方へ、別の記事を用意しました。

会議のあとに議事録を書く手間を減らしたいなら、議事録をAIに書かせる。コピーして貼るだけの手順です。そのまま貼って使える指示文を1つだけ載せています。

社内の資料をAIへ貼ってよいか迷うなら、社内の資料をAIに貼っていいのか。社名と金額を伏せて貼り、答えを元に戻す手順を読んでください。この記事で書いた「公開URLに個人ハンドルが入った」失敗と、同じ種類の見落としを扱っています。