英文メールをAIに翻訳させる。「前向きに検討します」が相手にはYesと読まれる
海外の取引先へのメールをAIに英訳させるときの手順です。同じ日本語メールを「次の文を英語にしてください」だけの版と、背景を書いた版の2通りで訳させて並べました。訳文を見比べても誤りは見つかりません。英語が読めなくてもずれを見つける確かめ方を書いています。
海外の取引先へのメールを、AIに英訳させる人は多いはずです。
返ってきた英文は、たいてい文法的に正しい。 困るのはそこではありません。
「前向きに検討します」「少々厳しい状況です」。この言い方をそのまま英語にすると、読んだ相手は違う意味で受け取ります。
この記事では、同じ日本語メールを2通りの頼み方で英訳させ、返ってきた2つを並べます。
この記事で分かること
- そのままコピーして使える指示文(1つだけ載せます)
- 日本語のあいまいな言い方が、英語でどう化けるか(実際に2通りで送って比べました)
- 英語が読めなくても、訳のずれを見つける確かめ方
こんな人に向けて書いています。 海外の取引先や、社内の外国籍のメンバーへ英語でメールを出す会社員。英語は読めるけれど、自分の英文が意図どおりに伝わっているか自信がない人。
この記事で扱うのは、ビジネスメールの英訳だけです。 契約書と技術文書は別の作業なので、ここでは触れません。
全体の流れ
3つです。
- 背景を書いてから訳させる(相手・目的・決まっていないこと)
- 返ってきた英文を、そのまま送らない
- 「この英文を読んだ相手は何と理解しますか」と聞く
大事なのは3です。 訳文だけを見比べても、ずれは見つかりません。
どちらの英文も、英語としては正しいからです。間違い探しをしても出てきません。
1. この指示文をコピーする
この形をそのまま使えます。 最後の【守ること】まで含めて1つの指示文です。
次の日本語のメールを英語にしてください。
【相手】海外の取引先の購買担当者。日本語は分かりません
【目的】11月の納期に間に合わないことと、数量が倍なら単価を下げられることを、
誤解なく伝える
【形】件名と本文。結論を先に書き、番号付きの3点にまとめる
【守ること】
・日本語のあいまいな言い方は、日本語の丁寧さのためのものです。
英語では、決まっていないことは「まだ決まっていない」、
できないことは「できない」と書いてください。
・原文に無い約束を足さないでください。
・訳したあとに、原文にあって英文へ入れなかったことを箇条書きで並べてください。
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(ここに日本語のメールを貼る)
効くのは【守ること】の3行です。 上の3つは体裁を整えるだけで、訳の中身は変えません。
【目的】は自分の言葉で書き直してください。 ここが空だと、AIは原文の丁寧さのほうを優先します。
2. 練習用の日本語メール
この記事の中だけの架空のメールです。 そのままコピーして試せます。
件名:お見積りの件
サンライズ・パーツ株式会社
購買部 リー様
いつもお世話になっております。日本アクセル商事の佐藤です。
先日ご依頼いただいた増産分のお見積りにつきまして、
社内で前向きに検討しております。
ただ、11月の納期については少々厳しい状況です。
現行の生産枠が埋まっており、増産分を上乗せするとなると、
12月中旬以降のご案内となる可能性がございます。
単価につきましては、数量が2倍になりますので、
ある程度のご相談は可能かと存じます。
取り急ぎ、ご連絡まで。
日本語としては、ごく普通のメールです。 失礼なところも、あいまいすぎるところもありません。
ただし、日本語の読み手が補って読んでいる言い方が4つ入っています。
- 「前向きに検討しております」=まだ決まっていない
- 「少々厳しい状況です」=間に合わない
- 「12月中旬以降のご案内となる可能性がございます」=12月中旬になる
- 「ある程度のご相談は可能かと存じます」=下げられる
4つとも、書いてある言葉と意味が違います。
3. 素のまま訳した版と、背景を書いた版
まず「次の文を英語にしてください。」とだけ書いて送りました。返ってきた英文です。
Subject: Regarding the quotation
Sunrise Parts Co., Ltd.
Purchasing Department
Mr. Lee
Thank you for your continued support. This is Sato from Nihon Accel Trading.
Regarding the quotation for the additional volume you requested the other day,
we are considering it positively in-house.
However, the delivery date in November is a slightly severe situation.
The current production capacity is full, so if we add the additional volume,
there is a possibility that our answer will be from mid-December onward.
As for the unit price, since the quantity will be twice as much,
we believe that consultation to some extent is possible.
We will inform you in haste.
次に、1章の指示文を付けて同じメールを送りました。返ってきた英文です。
Subject: Additional volume - December delivery and revised unit price
Dear Mr. Lee,
Thank you for your request. Here are the three points you need.
1. Delivery
We cannot meet a November delivery. Our line is fully booked through
November, so the earliest shipment for the additional volume is
mid-December.
2. Unit price
Because the quantity doubles, we can lower the unit price.
We will send you the revised figure by Friday.
3. Internal approval
The additional order has not been approved internally yet.
We expect to confirm it this week.
Could you let us know whether a mid-December delivery works on your side?
Best regards,
Sato
Nihon Accel Trading
---
原文にあって、英文へ入れなかったこと
・「いつもお世話になっております」(英語に当たる定型がないため、
Thank you for your request に置き換えました)
・「取り急ぎ、ご連絡まで」(英語では意味を持たないため落としました)
上の英文に、文法の誤りはありません。 読み比べても「ここが間違い」とは言えません。
違うのは言い切っているかどうかだけです。上の版には、言い切っている文が1つもありません。
4. 英語が読めなくても、ずれを見つける
2つの英文を、それぞれ別に貼って、こう聞きました。
この英文だけを読んだ取引先は、納期・単価・社内の決定について、
それぞれ何と理解しますか。箇条書きで書いてください。
素のまま訳した版についての答えです。
・納期:11月は少し厳しいが、まだ可能性は残っている
・単価:値下げの相談には応じてもらえそう
・決定:社内では前向きで、受注はほぼ決まっている
背景を書いた版についての答えです。
・納期:11月は不可能。最短で12月中旬
・単価:下げられることは確定。金額は金曜日に届く
・決定:まだ承認されていない。今週中に確定する見込み
並べるとこうなります。
| 聞いた3点 | 素のまま訳した版 | 背景を書いた版 | 書き手が伝えたかったこと |
|---|---|---|---|
| 納期 | まだ11月の可能性がある | 11月は不可能・最短12月中旬 | 11月は不可能 |
| 単価 | 相談に応じてもらえそう | 下げられることは確定 | 下げられる |
| 社内の決定 | ほぼ決まっている | まだ承認されていない | まだ決まっていない |
3点とも、ずれているのは左の版だけです。
いちばん危ないのは「決定」の行です。 「ほぼ決まっている」と読まれた相手は、社内で発注の準備を始めます。
この確かめ方の要点は、訳文を見ないことです。 訳文を見ると、英語の正しさのほうに目が行きます。
5. うまくいかないとき
結論が最後に来て、読んでもらえない
指示文の【形】が足りていません。 「結論を先に書き、番号付きの3点にまとめる」を入れてください。
日本語のメールは、事情を先に書いて結論を最後に置きます。そのまま訳すと、その順番も一緒に残ります。
社名と担当者名が、そのまま英文に入っている
訳させる前の作業が抜けています。 置き換え表を先に作ってから貼ってください。
英文メールにも、社名・人名・金額はそのまま入ります。訳す作業だからといって、貼る中身が変わるわけではありません。
やり方は社内の資料をAIに貼っていいのか。社名と金額を伏せて貼り、答えを元に戻す手順に書きました。取引先の名前は、英文にすると余計に目立ちます。
日本語へ戻して確かめても、ずれが見つからない
英文を日本語へ訳し直す確かめ方は、この場面では効きません。
戻ってくる日本語は「前向きに検討しております」です。原文と同じであいまいなので、突き合わせても差が出ません。
だから訳文ではなく、相手が何と理解するかを聞きます。4章の形です。
やってみて分かったこと
今回のゴールは「誤解なく伝わる英文メールを受け取ること」でした。結果は、達成です。 背景を書いた版は、そのまま送れます。
ただ、いちばんの発見はそこではありませんでした。
あいまいだったのは、英文ではなく日本語の原文のほうでした。
「少々厳しい状況です」には、間に合わないという意味は書かれていません。日本語の読み手が補っているだけです。
英語の読み手には、補う材料がありません。 だから、書いてある言葉のとおりに読みます。
つまり、訳が下手なのではありませんでした。 原文が省いたぶんが、そのまま届かなかっただけです。
だから直す場所は、返ってきた英文ではありません。 頼むときに書く背景のほうです。
確かめていないことも書いておきます。
- 送ったのは、それぞれ1回ずつです。 AIの出力は毎回同じにはなりません。
- 相手の理解を書かせた答えも、同じAIが出したものです。 実際の読み手に読んでもらった結果ではありません。
- 英語を母語とする人に確認していません。 英文そのものの自然さは、この記事では判定していません。
- 相手の国と業界によって、受け取り方は変わります。 ここで見たのは1通ぶんです。
次にやること
まず、自分が最近出した英文メールを1通選んで、4章の質問だけをやってみてください。 訳し直す必要はありません。
「相手は何と理解しますか」の答えが、自分の意図と違っていたら、そこが直す場所です。
そのあとで、1章の指示文を使って書き直してください。指示文より先に、ずれを見る順番をおすすめします。
貼る前に社名と金額を伏せるなら、社内の資料をAIに貼っていいのか。社名と金額を伏せて貼り、答えを元に戻す手順へ。英文メールにも、社名と金額はそのまま入ります。
同じ「頼み方だけ変えて2回送って並べる」形は、長い文章をAIに要約させる。数字と「決めること」を落とさない頼み方でもやっています。あちらは、落ちたものを最後に並べさせる話です。
メールの前段にある会議のメモから作るなら、議事録をAIに書かせる。コピーして貼るだけの手順へ。決まったことと決まっていないことを分けて書く形が、そのまま英訳の材料になります。
「もっともらしい答えを、確かめずに信じる」という今回の形は、AIの「たぶん壊れています」を確かめたら、壊れていなかったと同じです。私が実際に信じかけた記録が残っています。
使うときの注意
英訳しても、社外へ出す文章であることは変わりません。
- 勤務先がAIの業務利用を認めていない場合は、英訳の用途でも貼らないでください
- 見積の金額と納期は、社内で確定してから書いてください
- 英文が言い切る形になるぶん、間違っていたときの取り消しも重くなります
言い切る英文は、内容が正しいときだけ役に立ちます。 決まっていないことは「まだ決まっていない」と書けば、それで足ります。
練習には、この記事の架空のメールをそのまま使えます。 実際の仕事で使うときは、送る前に必ず4章の質問をしてください。